雷雲とうさ耳

お笑いとジェンダーと雑多なお気持ちと少しだけ旅。

日本の「いじり」文化

窓の外はホワイト・アウトだ。

買い物やら雑務やらを旅行の合間に終わらせてしまおうと思っていた私の今日の計画は早くも崩れた。まぁ、計画は倒れていくものだというのが常の学びではあるのだが。

ぼんやりとお正月特番を見ながらベッドで旅行の疲れを癒そうとぼーっとしていた。ツイッターを開いて出てきたのは、男性目線の性加害にまつわる記事を読みながら、ぼんやりと色々なことを考えていた。何でこんなことが起きてしまうんだろう、とか、何でこんなに社会は歪んでいるんだろう、とか、結局いつも社会の問題ではなく人間関係の(つまり個の)問題として片付けられてしまうなぁとか。

お腹の中がぐるぐるしていて、思う所がまとまるかもわからないが、とにかく何か書きたいと思う。(まとまらなかった結果男性加害の話にはほとんどならなかったことを予めご了承願いたい。)

私が常々好きになれない日本の風潮がある。それは、「冗談でかたづける」という風潮だ。本気で怒っている相手をいなす、なだめる手段として多くの人が用いるし、用いられたことがある人もいるだろう。文化だから、といわれたらそれまでだが、それで会話を打ち切ろうとするのは少し待ってほしい。それは思考停止にすぎないから。とりあえず、相手の意見を聞いて、できたら考えるところまで行ってほしい。反対でも賛成でも、何でもいい。考えてほしい。

私自身、「冗談で片づけ」たことは何回もある。特に中学生の頃とか、本当に面白いと思って好きな友達にいたずらしたりしていた。嫌がっていた子もいたし、面白がってくれる子もいた。からかって怒る子に対しては、「え、ノリがわかんないなんてつまんないね」みたいな扱いしかしていなかった。でも、大学に入ってから、明らかに自分がいじられる立場になることが多くなった。背の低さ、女性性、東大生であること…色々な要素が私をいじられ役にしていた。その一つ一つの要素は、私にとって恥じるべきものでもなんでもなかったので、最初は特に気にしていなかったし、「みんな私のこと大好きだなぁ(のほほん)」みたいな感じで生きていた。

状況が変わったのは、二つのサークルに積極的に顔を出し始めた頃だった。

まず一つお断りしておきたいのだが、私と同じサークルに入っている方たちで、この文章を読んだ方。多分どの話をしているかわかると思うけど、私はサークルを告発したいわけでもないし、誰かが嫌いだとか、サークルが嫌いだとか、そういうことを言いたいわけでもないです。単純に、サークル活動を通して、狭いながらも、社会の一つのゆがみを感じてしまったというだけの話で、誰が悪いというわけでもないです。伝われ。後輩たちも、いや今になってこんな公開して言わんでも、と思うかもしれないけれど、私は単に、一般に流布する歪みの、わかりやすい例としてこのサークルの話をするだけです。今から書くことで嫌われちゃうかもしれないけど、みんなのことは大好きです。言い訳が長くて見苦しいな。まぁいいや。前置きはこれくらいにして、続けます。

「東大女子」というものへの扱い

私が入ったサークルの、強さの基準は「面白さ」でした。ものすごくぼかして言うと、私が本当にやりたかったことは演劇系のサムシングで、実際の活動内容とは大分離れていたので、当初から私は「面白さ」を追求することに興味がありませんでした。更に言うと、インカレサークルで、私の学年では、私とあと二人の女子を除いて、他は全員他大生の女の子たちでした。男性陣にも他大の方はいましたし、そこそこの多様性は保たれていたと思います。ただ、3つのパートに分かれていて、私のパートには、ほとんど来ない他大の女子二人と私以外に女子はいませんでした。俗に言う姫状態というやつですね。

私自身は姫とは程遠い女子だったし、東大女子だったのもあってか、普通に機材運ばせられたりとかしましたし、体力面の扱いは男子とそこそこ同等に扱われ、ある種私もそれを誇りに思っている面があったりはしました。同じように仕事をし、同じように評価される。あれですね、男社会に生きる女の喜びみたいなのを知ってしまったのかもしれません。でも、それって結局歪みが反映された形でしかないんですよね。

加速するいじり

私が「男子と同等に扱われてるぅ」とか言ってにへにへしている間に、状況は少しずつ悪化していました。先ほども言いましたが、私のサークルでの評価基準は「面白さ」でした。私は下ネタもあまり好きではないし、男子テンションのスピード感と上手くかみ合わず、非リア芸くらいでしか笑いを取れない状況が続いていました。女子高で面白いと評価されていたものと、この「社会」で評価されるものは全然違う。自分なりにかなり悩んでいましたし、正直「もうやめたいなぁ」と百回くらい思いましたが、それでも、「一度始めたものを簡単にやめるのは良くない」と自分に言い聞かせて何とか行っていました。そんな状況で面白いことが言えるわけもなく自信を喪失し…と永遠に思われる悪循環を繰り返していた時に「ほくちゃん面白くない」いじりが始まったわけです。

「面白い」ことだけが評価基準でなかったならば、そんなことを言われても大して気にならなかったかもしれないです。でも、その時の私は「次の活動ではどうやって笑いを取ろう、どうやったら面白いと言ってもらえるだろう」とずっと考えていました。でも、いくら考えても無駄なんです。だって「ほくちゃん面白くないいじりが面白い」という流れが既にできているのですから。ただの流行り。ただの遊び。ただのいじり。でも、どうしてもサークルに行かれなくなった私は、友達と観劇しに行った先で、幕が開く直前に、「そう、さっきあいさつしてくれた人たちサークルの人で…」と言いながら号泣してしまったわけです。

いじっているだけ、いじられているだけ

今考えたら、あの時別に行かなくなってもよかったとは思うんです。逃げも一つの選択肢だよ、と言いたい。私は、自分が人前で号泣するほど辛かったと思っていませんでした。涙が出た時にも、自分がまさか「いじられているだけなのに辛い」なんて思いもしなかったし、だから自分が泣いている理由もよくわかりませんでした。いじっている人たちと同様、私自身も、「いじられているだけだ」と思って、自分の中の傷に向き合おうとしていなかったのだと思います。

どうして傷に向き合えなかったのか。それは、私自身が「いじられているだけなのに真剣に取り合うなんて、ノリの悪いつまんねー奴」という考えを持っていたからに他ならないと思います。

私は、自分のことを、弱い女だとは微塵も思っていません。だって弱くないもん。でも、それでも、一度傷つき、その傷が修復される間もなく、何度も何度も抉られたら、自分が認識しているよりも大きい、治りにくい傷になってしまうんだと思います。

以下、分析です。

分析

1なぜいじられたのか

先ほども言った通り、身長が低いことはかなり関係していると思います。背が高いいかついグラサンのおっさんをいじりませんよね。見た目が怖くないと、いじられやすいんだと思います。次に、東大女子であること。女子をいじりたい、でも他大の女子には失礼になるし、東大女子なら自分側だし、なによりも「東大女子で強いから」多少いじっても傷つかないだろう。みたいな。傷つきます。人間なので。

2いじりの内容

いじりの内容は、「面白くない」みたいなものから、女性性を求めるものまで様々でした。普段の扱いは機材運びながら「おも」って言ったら、「か弱い女子ぶってんなよwww」みたいな扱いだった割に「女子が必要だから番組に出て」とか、「ほくちゃんは女の子だから、女の子にこうされたら男子は喜ぶから」とか、いやこれはいじりじゃなくて扱いの問題か。まぁとにかく、セクハラまがいのいじりもする割に、男としての働きも要求してくると。誰もそれを止めないし何なら面白がっている。なるほど、こういう男たちが妻に仕事も家事も全部させて「俺のかみさん、俺が仕事忙しくて疲れてるのに癒してくれないんだ」とかいうんだろうな、みたいな社会の病巣を…これは話飛びすぎか。

面白がってるのがさ、意味わかんなくてきついよね。面白がられてるから「やめてください」とも言えないし。

3結局何が言いたいかって言うと

これって、人間関係の問題全般に言えるんじゃないかなって思いまして。恋人に、真剣な話として提起しているのにまともに取り合ってもらえない、とか。セクハラの問題とか。いじめもそうだし。相手がセクハラだって思ったらセクハラだ、とか、相手がいじめだって思ったらいじめだ、とか。それだと確かにわかりにくいんですよね。とてもわかりにくい。しかも、されてる側も「冗談を真剣に取り合ってる」と思われたくなくて笑顔で接するから、余計にわかりにくい。

でも、だからこそ、私はわかる人間でありたいし、この文章を読んだ少しでも多くの人に「あ、この人、笑顔だけどもしかして辛いのかな」っていう風にちょっとでいいから気にするようにしてほしいし、どうせなら、「まぁ、私/僕/俺は〇〇のこと、本当にそうだとは思ってないけどね」って言ってあげてほしい。言ったところで不幸になる人はいないし、それだけで誰かを幸せにできたらめっけもんじゃない?そして、そういう人が「正直、本当はいじりきつくてさ…(笑)」と笑いながらでも話しかけてきたら、「え?あんなんいじりじゃん(笑)」とか言わずに、「そうだよね、私/僕/俺もきついなとは思ってたんだよ。」って優しく受け止めてあげてほしい。いじられキャラの人間の言葉は、グループで話していても、誰からも言葉を返されず、受け止められずに宙ぶらりんになってしまうことが多いから。受け止めるだけで、心は軽くなるから。

思いの丈をつづったら、思いのほか長くなってしまいました。ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。